コロイド粒子はポリマー集積を助長し、ポリマー水溶液の蒸発速度を著しく遅くする
コロイド粒子はポリマー集積を助長し、
ポリマー水溶液の蒸発速度を著しく遅くする
真人线上娱乐大学院生物システム応用科学府博士後期課程 田中優彦氏と工学研究院応用化学部門 稲澤晋教授は、ポリマー水溶液の蒸発速度を測定し、水溶液内に固体粒子(コロイド粒子)が共存すると、蒸発が起こる液面(蒸発面)近くにポリマーが集積しやすくなり、蒸発速度が急激に下がることを明らかにしました。固体粒子とポリマーの両方を含む分散液(スラリー)を乾燥させて薄膜を作る方法は、ものづくりで幅広く利用されています。この成果は、スラリーの効率的な乾燥方法の設計につながる知見を提供するものです。
本研究成果は、Industrial & Engineering Chemistry Research誌(2025年5月19日付)に掲載されました。
論文名:Drying Kinetics of Polymer Solutions with and without Colloidal Particles
著者名:Masahiko Tanaka and Susumu Inasawa
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.iecr.5c00476
背景
固体粒子を含む分散液(スラリー)を塗布し乾燥させて薄膜を得る工程は、ものづくりで幅広く用いられています。多くの工程で、粒子同士の接着や膜強度を上げるために、分散液にポリマーを添加します。溶媒の蒸発とともに、粒子とポリマーの両方が同時に濃縮される複雑な過程を経て、薄膜が自然にできあがります。しかし、この蒸発速度を決める要因が何であるかは十分に分かっていませんでした。
研究体制
本研究は、真人线上娱乐大学院生物システム応用科学府博士後期課程3年の田中優彦氏と大学院工学研究院の稲澤晋教授によって行われました。本研究は、JSPS科研費(JP23K26435、JP23H01742、JP24KJ1020)の助成を受けました。
研究成果
水溶性のポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)をそれぞれ用いて、ポリマー水溶液を調製しました。これを直径280 nmもしくは2.5 μmのシリカ粒子分散液に添加して、ガラス毛細管の中で蒸発させました。比較として、ポリマーのみの水溶液も蒸発させました。その結果、以下のことを明らかにしました。
(1) 蒸発が起こる液面近くに一定以上のポリマーが集積すると、蒸発速度が顕著に下がる。
(2) コロイド粒子が共存すると、蒸発で形成する粒子膜がポリマー集積を助長するため、蒸発開始からすぐに顕著な蒸発速度の低下が起こる。(図1左)
(3) コロイド粒子の共存効果は、粒子間の空隙におけるポリマー集積が主因であり、粒子サイズやポリマー分子量の影響をほとんど受けない。粒子が共存すると少量のポリマーでも濃度は高くなる。(図1右)
(4) 初期蒸発速度J0 [mm min-1]と蒸発速度が下がり始めるポリマー層の厚みlc [μm] を用いれば、コロイド粒子の有無や直径、ポリマーの種類や分子量が異なる条件下の蒸発データも整理できる。(図2)
今後の展開
これまで、ポリマーが蒸発面近くに集積されることで水溶液の蒸発速度が低下することは知られていましたが、ポリマーと粒子が混合したスラリーの乾燥でも、同様のメカニズムで蒸発が遅くなることを発見しました。特に、速く乾かそうとするとその分だけポリマーが蒸発面に集積するため、蒸発速度が逆に遅くなってしまうジレンマが起こることを示唆しています。また、ポリマーや固体粒子の組み合わせにかかわらず、J0とlcの二つの特徴量で蒸発速度を整理できることも発見しました。蒸発速度を予測?制御するために重要な知見であり、工業プロセスでの効率的な乾燥条件の設定につながると期待されます。


(図はInd. Eng. Chem. Res. (2025) DOI 10.1021/acs.iecr.5c00476を基に作成)
◆研究に関する問い合わせ◆
真人线上娱乐大学院工学研究院
応用化学部門 教授
稲澤 晋(いなさわ すすむ)
E-mail:inasawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp