廃棄物の削減を実現するペプチド合成系の確立を目指して―有機電解反応を利用したペプチド合成法の開発―
2021年10月15日
廃棄物の削減を実現するペプチド合成系の確立を目指して
―有機電解反応を利用したペプチド合成法の開発―
国立大学法人真人线上娱乐大学院連合農学研究科応用生命科学専攻の永原紳吾(博士後期課程2年)、同大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授、北野克和教授ならびに千葉一裕学長は、可溶性疎水性タグと、トリフェニルホスフィン(Ph3P)を縮合剤として利用する電解ペプチド結合形成反応を組み合わせ、新たなペプチド合成法の開発に成功しました。本研究で得られた成果から、Ph3Pがリサイクル可能な縮合剤となりうることが示され、従来のペプチド合成法では大量の廃棄物が生じるという問題の解決につながることが期待されます。
本研究成果は、英国王立科学会Chemical Science誌(9月2日付)に掲載されるとともに、同誌のOutside Front Coverで取り上げられました。
URL:https://doi.org/10.1039/D1SC03023J
現状
近年、分子量が500~5000程度の化合物は「中分子」と定義され、低分子医薬品(分子量500以下程度)の化学合成によって大量合成できるという利点と、抗体医薬品(分子量数万程度)の標的特異性が高く、副作用が小さいという利点を併せ持つ医薬品となることが期待されています。その代表候補の1つとしてペプチドが挙げられますが、従来のペプチド合成法では大量の廃棄物が生じることが問題となっており、その原因の一つがアミノ酸を伸長する際に用いられる縮合剤です。縮合剤は、ペプチド結合形成反応を効率的に進行させる試薬ですが、反応後に生じる副生成物は回収が難しく、アミノ酸を伸長するごとに廃棄物として蓄積していくのが現状です。この問題を受け、アミノ酸の伸長段階での廃棄物量の削減を実現する、新たなペプチド合成法が求められています。
研究体制
本研究は、真人线上娱乐の永原紳吾(大学院連合農学研究科博士後期課程)、岡田洋平(大学院農学研究院准教授)、北野克和(大学院農学研究院教授)、千葉一裕学長の研究チームで実施しました。
研究成果
上記課題に対する有望な戦略として、①ペプチド結合形成反応触媒の開発と②縮合剤のリサイクルが挙げられます。現在主流となっている戦略は①であり、現在も発展が続いています。一方で、②の戦略は、従来の縮合剤の副生成物の回収および再生が難しいことから未開拓となっています。そこで我々は、従来用いられている縮合剤は使わず、電気によってPh3Pを活性化することで生じる化学種を縮合剤として利用してペプチド合成を行い、反応後に生じる副生成物(Ph3PO)を回収し、元の試薬に再生することで縮合剤のリサイクルの達成を目指すことにしました。Ph3POは結晶性が高く、従来の縮合剤から生じる副生成物よりも回収が容易になります。また、合成したペプチドとPh3POの分離を簡便化するために、我々が開発してきた可溶性疎水性タグをペプチドの保護基として用いました。これにより、濾過操作のみで目的のペプチドを回収するとともに、Ph3POと分離することができます。その結果、生体内のペプチドを構成するアミノ酸20種すべてに適用可能なペプチド合成系の構築と、反応後の混合物中からのPh3POの回収に成功しました。Ph3POからPh3Pへの変換は様々な方法で達成されているため、本研究の成果からPh3Pがリサイクル可能な縮合剤になりうることが示されました。さらに、乳がんや膀胱がんの治療薬としても用いられているリュープロレリンの合成にも成功し、従来のペプチド合成法の代替となる可能性が示されました。
今後の展開
実用化を成し遂げるためには、本研究で開発した電解ペプチド合成法を基礎にして、大量合成可能かつより高純度で目的のオリゴペプチド合成が可能な系を構築していくことが必要となります。また、これまでに様々な方法でPh3POからPh3Pへの変換が報告されていますが、加熱を要する例が多く、より穏和な変換法を開発していくことが求められています。これらが達成されることで、従来のペプチド合成法の問題を解決した新たなペプチド合成法が可能になると期待されます。
◆研究に関する問い合わせ◆
真人线上娱乐大学院農学研究院
応用生命化学部門 准教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
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