二酸化炭素を原料としてイオン伝導性と強度を両立するリチウム二次電池用固体ポリマー電解質材料を実現
二酸化炭素を原料としてイオン伝導性と強度を両立する
リチウム二次電池用固体ポリマー電解質材料を実現
国立大学法人真人线上娱乐大学院工学研究院応用化学部門の富永洋一教授と同木村謙斗助教、および生物システム応用科学府博士後期課程Nantapat Soontornnon氏の研究グループは、二酸化炭素(CO2)を原料とする高分子(ポリマー)材料の一種である二酸化炭素/エポキシド共重合体とリチウム(Li)塩の混合物からなるイオン伝導性固体高分子電解質について、高分子の架橋構造制御と超高塩濃度化を検討しました。その結果、当材料は優れたイオン伝導度と力学強度の両立を実現し、リチウム二次電池用のフレキシブルな電解質膜として応用可能であることを実証しました。固体高分子電解質を用いた二次電池(蓄電池)は従来型のものより安全性が高く、次世代電池開発、および二酸化炭素の有効利用の両側面から、カーボンニュートラルの実現に貢献すると期待されます。
本研究成果はJournal of Materials Chemistry Aに6月25日にオンライン掲載されました。
論文タイトル:A highly salt concentrated ethylene carbonate-based self-standing copolymer electrolyte for solid-state lithium metal batteries
URL:https://doi.org/10.1039/D4TA03543G
背景
私たちの生活に欠かせないリチウムイオン電池に代表される二次電池(注1)ですが、揮発性?引火性の有機電解液による安全性の低下が問題となっています。極性高分子(注2)と金属塩を複合化すると、塩が内部でイオン化し、固体でありながらイオン伝導性を示す場合があります。これを固体高分子電解質とよび、より安全な材料として期待されています。当研究グループでは、世界に先駆けて、二酸化炭素/エポキシド共重合(注3)により得られる脂肪族ポリカーボネートの利用に着目してきました。過去の研究で、従来材料と比べ高い塩溶解能や高リチウムイオン伝導度など、研究例の多いポリエーテル系材料に比べ有望な物性発現メカニズムを有することがわかっていました(参考:〔2017年10月6日リリース〕二酸化炭素を原料とするイオン伝導性高分子材料~安全な固体リチウム二次電池開発に貢献~ /outline/disclosure/pressrelease/2017/20171006_01.html )。また、重合条件や触媒種の制御により、一定比率のエーテル結合を含みポリエーテル系材料の利点も取り込んだ材料の開発にも成功しました。しかし、得られる材料は柔らかい樹脂状であり、優れた加工性や安定な充放電サイクルの実現には、イオン伝導性と力学的強度を両立させる材料設計が課題でした。
研究体制
本研究は、真人线上娱乐大学院工学研究院応用化学部門の富永洋一教授、同木村謙斗助教、および生物システム応用科学府博士後期課程Nantapat Soontornnon氏により実施されました。また本研究は、JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共同(育成型、課題番号:JPMJTR22T2)の助成を受けました。
研究成果
本研究では、高分子の架橋の有用性に着目しました(図1)。二酸化炭素(CO2)、エチレンオキシド(EO)、および架橋部位となるアリルグリシジルエーテル(AGE)をモノマーとして触媒とともに耐圧容器内に仕込み、前駆体であるポリ(エチレンカーボネート/エチレンオキシド/アリルグリシジルエーテル)(P(EC/EO/AGE))を合成しました。このとき、モノマーの仕込み比を変えることで、さまざまなEC/EO/AGEユニット比率を有する共重合体としました。固体電解質はP(EC/EO/AGE)と架橋反応の開始剤をリチウム塩(リチウムビスフルオロスルホニルイミド、LiFSI)とともに溶媒に溶解させ架橋させる方法で作製しました。このとき、架橋部位比率と塩濃度の組み合わせを幅広く試し、最適化を目指しました。
今回の検討では、約30%という比較的高い架橋部位(AGEユニット)比率の架橋共重合体に、一般的な水準と比較して極めて高い濃度のリチウム塩を含有させた電解質が、膜状の材料として得られイオン伝導性と強度の良いバランスを示すことがはじめて明らかになりました(図2)。このような材料設計は、二酸化炭素/エポキシド共重合体型電解質において、一般的なポリエーテル電解質の性質とは逆に塩濃度の増加とともにイオン伝導度が向上するという、これまで続けてきた研究による知見にもとづくものです。
実際に負極としてリチウム金属、正極としてリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用いたリチウム二次電池を試作し試験したところ、400回以上におよぶ充放電サイクルが可能であることを確認しました。これまで固体高分子電解質材料では、イオン伝導度を向上させるために必要なポリマー構造の変更や可塑剤の添加により強度が失われるため、セパレータ兼電解質として設置しこのようなサイクル性能を実現することは難しいものでした。また、ポリエーテル電解質ではイオンを高分子鎖で囲い込むような強固な錯体構造を形成することが必須であり、それが架橋により損なわれることから、架橋はあまり効果的な技術であると考えられてきませんでした。本研究は、イオン伝導メカニズムが従来型とは異なる材料であれば、架橋がイオン伝導性と力学的強度の両立のために有用である可能性を明らかにした、興味深い事例といえます。
今後の展開
本研究では、モノマーユニットのうち約30%という比較的高い架橋部位の密度を有する架橋高分子に超高濃度の塩を溶解させるという新しい材料設計により、優れたイオン伝導性と力学的強度のバランスを実現しました。今後材料調製プロセスのさらなる検討により膜厚など素材としての特性を最適化していくことで、電池内部の電気抵抗低減などが可能であると期待されます。また、従来材料より優れる電気化学的な安定性を活かして、より高電圧で作動する電池や、元素戦略面で課題のあるリチウムに代わる元素(ナトリウムなど)を用いた次世代電池への応用に発展することも期待されます。
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用語説明
注1)二次電池
充電可能で繰り返し使える電池。蓄電池ともいう。リチウムイオン電池やニッケル-水素電池、鉛蓄電池などの種類がある。電子を回路に流し電流を発生させるための化学反応を生じさせる電極(負極、および正極)と、その際に生じたイオンを伝導させ電極中の電荷を一定に保つための電解質が、両電極の接触による短絡を防ぐための多孔質セパレータに含侵され構成される。
注2)極性高分子
多数の原子が結合してできた分子量の大きな物質のことを高分子(ポリマー)という。通常、鎖状の分子同士の絡み合いにより柔軟な固体状やガラス状となり、プラスチックの原料としても用いられている。なかでも、エーテル基やカーボネート基など局所的な正負電荷の偏りを生じさせる官能基を構造中に含むものを、極性高分子という。
注3)二酸化炭素/エポキシド共重合
高圧の二酸化炭素を適切な触媒のもとエポキシド類(環状エーテル)と反応させると、共重合(複数の物質が反応し高分子となること)を起こし、脂肪族ポリカーボネートとよばれる高分子が生成する。この反応は、1960年代後半に東京大学のグループにより初めて報告され、現在では機能性材料の原料として二酸化炭素を固定化し有効利用するための手法として期待される。
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◆研究に関する問い合わせ◆
真人线上娱乐大学院工学研究院
応用化学部門 教授
富永 洋一(とみなが よういち)
? ? TEL/FAX:042-388-7058
E-mail:ytominag(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
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