溶媒の組成を変えてナノ粒子を操る:溶媒蒸発を利用したナノ粒子の凝集から分散への自発変化
溶媒の組成を変えてナノ粒子を操る:
溶媒蒸発を利用したナノ粒子の凝集から分散への自発変化
国立大学法人真人线上娱乐 大学院工学研究院応用化学部門 稲澤晋教授と株式会社資生堂 みらい開発研究所 研究員 福原隆志氏らは、蒸発する油としない油を混ぜた溶液を蒸発させるだけで、溶液中のナノ粒子の凝集分散を制御出来ることを明らかにしました。溶液中では凝集していても、蒸発が進むと自発的にナノ粒子が分散する系を実現できるため、ナノ粒子を用いた高機能の日焼け止め開発などにつながると期待されます。
本研究成果は、Langmuir誌(2024年10月11日付)に掲載されました。
論文名:Evaporation-induced switching from flocculated to dispersed TiO2 nanoparticles in binary solvents
著者名:Ryushi Fukuhara, Akio Nasu and Susumu Inasawa
URL:https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.4c03285
現状
二酸化チタン(TiO2)のナノ粒子は、高い紫外線防御能を示すため日焼け止めの成分として用いられています。しかし、この高い紫外線防御能は、TiO2ナノ粒子がバラバラ(分散状態)であると発揮され、複数のナノ粒子が集まって固まった状態(凝集状態)では紫外線を防ぐ機能が著しく低下します。一方で、肌に塗る段階では、「液だれ」や「キメ落ち」(成分が肌の凹部に溜まり肌の見た目や紫外線防御効果に悪影響する)が起こりにくい溶液が望まれます。溶液内でナノ粒子が凝集状態であると、溶液の粘性が上がり「液だれ」「キメ落ち」が起こりにくくなるため、塗る場面ではプラスに作用します。この分散と凝集の両立をどのように行うのかが課題でした。
研究体制
本研究は、株式会社資生堂の福原隆志氏、那須昭夫氏と国立大学法人真人线上娱乐 大学院工学研究院応用化学部門 稲澤晋教授の研究成果です。
研究成果
直径20 nmのTiO2ナノ粒子とポリヒドロキシステアリン酸(PHSA)(ナノ粒子の分散剤)とをセバシン酸ジエチル(DESB)とシリコーン油(D5)の混合溶媒に加え粒子分散液を作製しました。DESBが蒸発しない油、D5が蒸発する油です。またDESBとPHSAは非常に相性が良い(よく溶ける)ものの、D5とPHSAとは相性が悪い(ほとんど溶けない)性質があります。この分散液を基板上に塗って乾く過程を観察した結果、以下のことを明らかにしました。
- D5の割合を多くした分散液中では、TiO2ナノ粒子が凝集体を形成し、白濁する。白濁していると「液だれ」は起こりにくい。
- 蒸発によってD5の割合が減ると、白く濁った塗膜がある時点を境に急激に透明になる。(図1)
- 透明になる変化と同時に、1%程度であった紫外光の透過率はほぼゼロになる。塗って乾いた後に紫外線防御能が向上する。
- PHSAにとって相性の悪い油(D5)が蒸発すると、相性の良い油(DESB)が主成分になるため、TiO2ナノ粒子の凝集体が自然にほぐれる。
今後の展開
これまでのナノ粒子を用いた研究では、分散剤を用いて粒子の分散と凝集を制御する手法が一般的でした。これに対して本研究では、混合溶媒の組成を変えるだけでナノ粒子の凝集と分散の制御を行えることを示しました。この成果は、ナノ粒子の新たな分散凝集の制御法として利用でき、ナノ粒子を用いた高機能の日焼け止め開発などにつながると期待されます。

図1 塗布直後の分散液(a)とD5油が蒸発した後の塗膜(b)。(a), (b)それぞれの状態を光学顕微鏡で観察した結果が(c), (d)である。(c)で見られたTiO2ナノ粒子の凝集体がなくなっている。スケールバーは25 ?m。図はLangmuir, 2024,(?American Chemical Society)より改変。
◆研究に関する問い合わせ◆
真人线上娱乐大学院工学研究院
応用化学部門 教授
稲澤 晋(いなさわ すすむ)
E-mail:inasawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp