ナノポアを用いた血中がんマーカーのパターン識別に成功!―DNAコンピューティング技術による並列計算を利用―
ナノポアを用いた血中がんマーカーのパターン識別に成功!
―DNAコンピューティング技術による並列計算を利用―
国立大学法人真人线上娱乐大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司教授と同大学大学院工学府大学院生 竹内七海(卓越大学院生)、平谷萌恵(当時)は、DNA分子を用いて情報処理を行う「DNAコンピューティング技術(注1)」と「ナノポア(注2)」により血液中の複数のmicroRNA(血中がんマーカー)を同時検出し、胆管がんを識別することに成功しました。本技術は、診察所や自宅などのあらゆる臨床現場で即時診断を行うPoint-of-Care-Testingへの応用が期待されます。
本研究成果は、American Chemical Societyが発行するJACS Auに6月27日に掲載されました。
URL: https://doi.org/10.1021/jacsau.2c00117
論文名: Pattern Recognition of microRNA Expression in Body Fluids using Nanopore Decoding at
Sub-femtomolar Concentration
著 者: Nanami Takeuchi, Moe Hiratani and Ryuji Kawano
現状
がんの診断手法として、血液や唾液などの体液を用いて低侵襲に診断を行うリキッドバイオプシーが注目されています。microRNA (miRNA)はリキッドバイオプシーで用いられる診断マーカーの一つで、タンパク質をコードしない20塩基程度のRNAであり、がんの種類により特異的に発現パターンが変化します。miRNAの検出法として、従来法に比べて低コスト?迅速?簡便に標的分子を検出できるナノポアを用いた研究が行われてきました。しかし、がんの識別に必要な複数種類のmiRNAを同時に検出する(=パターンとして検出する)ことが難しいという課題が残されていました。
研究体制
本研究は、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司教授と大学院工学府大学院生 竹内七海(卓越大学院生)、平谷萌恵(当時)らによって実施されました。本研究はJSPS科研費学術変革領域研究(A)「超越分子システム」21H05229、特別研究員研究奨励費21H03143、基盤(A)19H00901、若手研究(A)16H06043の助成を受けたものです。本研究の一部は国立国際医療研究センター(NCGM)バイオバンクの支援を受けて実施されました。
研究成果
本研究では、DNAコンピューティング技術とナノポア計測を用いて胆管がん特異的なmiRNA発現パターンを識別することを試みました(図1)。5種類のmiRNAを同時に検出できる診断用DNAを設計し、miRNAを入力分子、診断用DNAを計算実行分子、診断用DNA/miRNA二本鎖分子を出力分子とする自律的な並列計算を行いました。ナノポア計測の際に得られる電流阻害時間は、miRNAの発現情報をコードした診断用DNAがナノポアを通過する時間を反映しています。この時間を解析したところ、胆管がん患者と健常者で完全に異なる時間の分布が得られ、血液中のmiRNA発現パターンからがん患者を識別することに成功しました。さらに、診断用DNAの濃度を最適化することにより、超低濃度miRNA(~10-16 M)の検出に成功しました。本手法により、miRNA増幅ステップ不要な血中miRNAパターン識別を実現できました。
今後の展開
本手法により、体液中の複数の超低濃度miRNAを迅速?簡便に同時検出することができました。今後、本システムを市販のナノポアデバイスに搭載することでハイスループット化し、実際の診断?予後観察へ展開することを目指しています。
注1)DNAコンピューティング技術
DNA分子を利用した情報処理?計算技術。溶液中に存在する大量のDNA分子(1モル = 6 × 10 23個)が一斉に反応(計算)することで、解候補の探索を超並列に実行できる。
注2)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。
◆研究に関する問い合わせ◆
真人线上娱乐大学院工学研究院
生命機能科学部門 教授
川野 竜司(かわの りゅうじ)
TEL/FAX:042-388-7187
E-mail:rjkawano@cc.tuat.ac.jp
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