反応経路の制御への挑戦! 連続環化反応によるヘテロ縮環化合物の一段階合成に成功

反応経路の制御への挑戦!
連続環化反応によるヘテロ縮環化合物の一段階合成に成功

 国立大学法人 真人线上娱乐大学院工学研究院応用化学部門の森啓二准教授は、反応に用いる出発原料の構造を巧みに調整することで、ヘテロ縮環化合物の一段階合成法の開発に成功しました。この成果により、これまでにはない医薬品合成の道が拓けることが期待されます。

本研究成果は、イギリス化学会 Chemical Communications誌(6月13日付)に掲載されました。
論文タイトル:Stereoselective synthesis of 6/7/6-fused heterocycles with multiple stereocenters via an internal redox reaction/inverse electron-demand hetero-Diels–Alder reaction sequence
URL:https://doi.org/10.1039/D4CC02351J

現状
 ヘテロ環(注1)は医薬や農薬、機能性材料などの様々な有用物質中に見られる重要な構造単位です。その中でも、ヘテロ環に複数の環構造が連なったヘテロ縮環化合物(注2)は、特殊かつ顕著な薬理活性の期待できる物質として大きな注目を集めています。一般にこれら化合物群を合成する際には、環構造を段階的に構築する手法が採用されますが、この場合、合成にかかる時間や工程数が増えてしまいます。そのため、多数の環構造を一挙に構築する新しい有機合成手法の開発が強く求められていました。

研究体制
 本研究は、真人线上娱乐工学府博士後期課程 酒井 暖、ならびに同大学院応用化学部門 高須賀(川崎)智子技術職員、および森啓二准教授により行われました。本研究は、内藤記念科学振興財団の助成により行われました。

研究成果
 本研究では、森准教授の研究グループが開発したヒドリド転位を介する分子内の酸化還元を利用したC-H結合官能基化法(分子内redox反応、注3)と分子内ヘテロDiels-Alder反応(IEDHDA、注4)との組み合わせによる合成手法の開発を目指しました。この手法の実現における課題は、“いかにして望みの分子内ヘテロDiels-Alder反応を分子内redox反応に先んじて進行させるか”にありました。分子内redox反応は特殊な分子変換ではありますが、意外にも進行しやすく、当初用いた出発原料1では分子内redox反応のみが進行し、計画した分子内ヘテロDiels-Alder反応が進行しないという問題に直面しました(下図の上パネル)。この解決にあたり、“二重結合上にベンゼン環を持つ原料5を用いれば分子内ヘテロDiels-Alder反応を加速させることができるだろう”とのアイディアのもとに研究を進めたところ、反応経路の制御に成功し、望みの一段階合成反応を実現することができました(下図の下パネル)。この合成法は、合成困難とされている七員環構造を含むヘテロ縮環化合物6が一段階で得られる、生成物中に含まれる複数の不斉情報を高いレベルで制御できる、などの複数の特徴を併せ持つ斬新かつ有力な有機合成反応です。この研究成果により、新たな医薬品合成の道が拓けることが期待されます。
 
今後の展開
 ヘテロ縮環化合物だけでなく、炭素環のみで構成された縮環化合物の合成にも本戦略を展開します。また、得られた化合物群の薬理活性評価やその不斉合成にも取り組んでいく予定です。

用語説明
注1) ヘテロ環
環の構成原子として酸素原子や窒素原子などのヘテロ原子を持つ環構造を示す用語。

注2) 縮環化合物
複数の環構造が連なった構造を持つ化合物を示す用語。ヘテロ環を含む場合は、ヘテロ縮環化合物と称される。

注3)C-H結合官能基化
有機化合物中に普遍的に存在する炭素—水素結合(C-H結合)を異なる原子との結合に変換する手法。森准教授らは分子内の酸化還元によりC-H結合を変換しながら環構造を作る反応を開発しており、これを分子内redox反応と称している。

注4)Diels-Alder反応
?ジエン(二つの二重結合が連なった化合物)とアルケンから環状化合物を合成する反応。ヘテロ原子が環構造に組み込まれる反応は特にヘテロDiels-Alder反応と称される。

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◆研究に関する問い合わせ◆
真人线上娱乐大学院工学研究院
応用化学部門 准教授
 森 啓二(もり けいじ)
   TEL/FAX:042-388-7034
   E-mail:k_mori(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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