世界初、界面大振幅振動せん断(界面LAOS)粘弾性測定による物理現象の解明に成功! ~大変形界面粘弾性測定を用いた、界面反応で粘弾性物質が生成する流動現象の解明に成功~

世界初、界面大振幅振動せん断(界面LAOS)粘弾性測定による
物理現象の解明に成功!
~大変形界面粘弾性測定を用いた、界面反応で粘弾性物質が生成する流動現象の解明に成功~

 真人线上娱乐大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻 2022年度前期博士課程修了の八木晴美さん、同大学院工学研究院応用化学部門の長津雄一郎教授、ティー?エイ?インスツルメント?ジャパン株式会社の髙野雅嘉さん、真人线上娱乐大学院グローバルイノベーション研究院の鈴木龍汰特任助教からなる共同研究チームは、世界で初めて、流体界面の大振幅振動せん断(LAOS(Large amplitude oscillatory shear, LAOS))レオロジー(※1)測定による結果を用いた物理現象の解明に成功しました。今回、研究チームは、界面での反応で粘弾性物質が生成する流動現象に対して、その界面の大変形粘弾性測定から界面弾性力および界面粘性力を算出し、界面粘性力の大きさによらず、界面弾性力がある閾値を越えるときに、その流動の状態が大きく変化することを見出しました。
 本成果は、反応界面で粘弾性物質が生成される流動では大変形下での粘弾性界面のレオロジーが決定的な役割を果たしていることを示すものです。さらに、本研究は、世界で初めて、界面LAOS測定の結果による物理現象の解明に成功した事例となります。従って、本成果は、これまで非常に限られた数の報告例しかなかった界面LAOS測定の有用性、発展性を広げるものです。

本研究成果は、Society of Rheologyが発行するJournal of Rheology(電子版2023年7月27日付)に掲載されました。
URL:https://doi.org/10.1122/8.0000650
論文名: Understanding the reactive interfacial flow dynamics with production of viscoelastic material through large amplitude oscillatory shear (LAOS) measurements of the viscoelastic interface
著 者 : Harumi Yagi, Yuichiro Nagatsu, Masayoshi Takano, and Ryuta X. Suzuki

現状
 物質の粘弾性(レオロジー)を測定する方法の代表的なものの一つに動的粘弾性測定というものがあります。この測定では、物質に、正弦波状のせん断ひずみ(※2)を与え、そのとき、物質に生じるせん断応力(※3)の挙動から、粘弾性を測定します。正弦波状の応力挙動が得られる、十分小さい振幅で行われる測定は、微小振幅せん断(Small Amplitude Oscillatory Shear, SAOS)測定と呼ばれます。この測定は、古くからから行われている古典的な測定ですが、この測定では、大きな変形下での粘弾性挙動を予測には適さないことがしばしば指摘され、2000年頃から、正弦波状の応力挙動が得られない、大きな振幅で行われる測定である、大振幅せん断(Large Amplitude Oscillatory Shear, LAOS)測定が、開発されています。ところで、粘弾性測定は、物質そのものの粘弾性を測定するバルク粘弾性測定と、その別の物体との界面の粘弾性を測定する界面粘弾性測定の二通りに分類することができます。歴史的には、バルク粘弾性測定から始まり、界面の粘弾性特性は、バルクのそれと異なることがあると指摘され、2000年頃までには、界面レオロジーという分野が定着しています。これまで界面レオロジーの動的粘弾性測定は、マテリアル分野で採用されることが多くSAOS測定で行われることがほとんどです。近年では、界面SAOS測定が、界面での相変化の検出に用いられるなど、その応用範囲が広がっています。一方、界面LAOS測定の事例は非常に少なく、その有用性、必要性は、懐疑的と考えられていました。

研究成果
 本研究チームは、ヘレ?ショウセル内で、粘性の高い流体が粘性の低い流体に押しのけられるときに、二流体の界面が指状に成長する粘性フィンガリング現象(図1)を対象に、ゲル生成反応を伴う液体流動実験を行いました。高粘性液体にキタンサンガム(XG)水溶液を、低粘性液体にグリセリン20 wt%を含む種々濃度の硝酸鉄水溶液を用いました(グリセリンは後述する高精度な界面LAOS測定のために二液体に十分な密度差を付与するために加えた)。種々の硝酸鉄濃度と注入流量の条件で実験を行うと図2のように、粘性フィンガリングパターンと一点もしくは二、三点から低粘性液体が成長するようなフラクチャーと呼ばれるパターンの二種類に分けられることを発見しました。そして、この流動パターンの違いは二液体の反応粘弾性界面のSAOS測定から得られる結果では説明できないことをつきとめ、流動条件と同様な大変形を与えることができる界面LAOS測定(図3、なお、界面LAOS測定は、ティー?エイ?インスツルメント社製ひずみ制御レオメータARES-G2とその界面レオロジー測定用Double Wall Ring治具を用いて行われました)から得られる結果で説明できることを見出しました。界面LAOS測定では図4のようなリサージュ曲線を得ます。そしてこの結果を解析し、大変形下での界面弾性力と界面粘性力を算出し、それらの値と流動パターンとの関係を調べました。その結果、界面粘性力の大きさに依らず、界面弾性力がある閾値を越えるときに、粘性フィンガリングパターンからフラクチャーパターンに遷移することを明らかにしました(図5)。
 本成果は、界面での反応で粘弾性物質が生成される流動では大変形下での粘弾性界面のレオロジーが決定的な役割を果たしていることを示すものです。加えて、本研究は、世界で初めて、これまで非常に限られた数の報告例しかなかった界面LAOS測定の結果による物理現象の解明に成功した事例となります。

研究体制
 本研究は、真人线上娱乐大学院長津雄一郎教授、鈴木龍汰特任助教、長津研究室卒業生の八木晴美さん、ティー?エイ?インスツルメント?ジャパン株式会社の髙野雅嘉さんによって実施されました。本研究はJSTさきがけ「エネルギー高効率利用と相界面」領域(25103004:研究課題名「飛躍的な石油増進回収のための油水反応レオロジー界面の創成」)、JSPS科研費(22686020, 25630049、16K06068)の援助を受けて行われたものです。

今後の展開
 本研究により、界面での反応で粘弾性物質が生成される流動では大変形下での粘弾性界面のレオロジーが決定的な役割を果たしていることが示されました。このことは、反応界面LAOS測定が界面での反応で粘弾性物質が生成される流動の研究で有用であることを示しています。今後、他の溶液?反応系での界面での反応で粘弾性物質が生成される流動に対しても、界面LAOS測定を用いた現象解明が可能か、界面LAOS測定を用いた検討が有用であるか、の検証を進めます。

語句解説
※1 レオロジー:物質の変形と流動(歪,応力)を科学する学問分野
※2 せん断ひずみ:せん断(作用)とは、物体のある断面に平行に、互いに反対向きの一対の力を作用させると物体はその面に沿って滑り切られるような作用を受ける、これがせん断作用である。ひずみとは単位長さあたりの変形量である。したがって、せん断ひずみとは、せん断作用による単位長さあたりの変形量である。
※3 せん断応力:応力とは、単位面積あたりの力である。したがって、せん断応力とは、せん断作用による単位面積あたりの力である。

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図1 高粘性液体を満たしたヘレ?ショウセル(非常に小さい距離(0.5 mm)だけ離れて設置された二枚の平行なガラス板)に低粘性液体を一点より注入すると、それらの界面は流体力学的に不安定になり指状に広がる。実験では観察を容易にするために、高粘性溶液であるXG水溶液をインディゴカルミンで染色している。
図2 流動実験結果 硝酸鉄濃度が上から0 M(非反応系)、0.01 M、0.05 M、0.10 M、0.15 Mで、注入流量が左から、基準の値(q0 = 4.2×10?9 m3/s)の、1倍、1.25倍、1.50倍、2倍、3倍、5倍のときの結果(高粘性液体はすべて0.3 wt% XG水溶液)である。薄い青色の背景の結果が粘性フィンガリングパターンを示し、薄い黄色の背景の結果がフラクチャーパターンを示している。
図3 界面LAOS測定の装置模式図 二重円筒のような構造をもつ装置の下側に、密度の大きなグリセリンを含む硝酸鉄水溶液を設置し、その上にセンサーを設置する。硝酸鉄水溶液とセンサーの上にXG水溶液を設置し、界面で粘弾性物質生成反応が起こるようにする。設置したセンサーで界面LAOS測定を行う。
図4 界面LAOS測定の結果 硝酸鉄水溶液の濃度が(a) 0 M、(b) 0.01 M、(c) 0.05 M、(d) 0.10 M、(e) 0.15 Mのときの結果である。各グラフの横軸は与えたひずみの大きさを示し、縦軸はセンサーが感知した応力の大きさを示している。色の違いは、設定した最大のひずみの大きさを示している。得られたパターンが円の場合は粘性的な性質を示し、直線的な場合は弾性的な性質を示している。(a)では、円形に近く、非反応系では、界面が粘性的であることを示している。一方(b)?(d)では、直線に近い形になっており、界面が弾性を有していることを示している。
図5 界面粘性力と界面弾性力によるパターン遷移 青色の背景のところでは粘性フィンガリング(VF)パターンを示し、黄色の背景のところではフラクチャーパターンを示している。この図から、界面粘性力によらず、界面弾性力によってパターンが遷移していることがわかる。



 ◆研究に関する問い合わせ◆

 真人线上娱乐大学院グローバルイノベーション研究院
 特任助教  鈴木 龍汰
 TEL/FAX:042-388-7656/042-388-7693
 E-mail:rxsuzuki(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

 真人线上娱乐大学院工学研究院応用化学部門
 教授  長津 雄一郎
 TEL/FAX:042-388-7656/042-388-7693
 E-mail:nagatsu(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 ティー?エイ?インスツルメント?ジャパン株式会社
 アプリケーション課 髙野 雅嘉
 TEL/FAX:03-5759-8500/03-5759-8508
 E-mail:masayoshi_takano(ここに@を入れてください)waters.com

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