細胞の役割分担で個体の動きを制御 -光に向かって泳ぐ緑藻ボルボックスに備わる巧妙なしくみ-

細胞の役割分担で個体の動きを制御
-光に向かって泳ぐ緑藻ボルボックスに備わる巧妙なしくみ-

 国立大学法人真人线上娱乐大学院工学研究院先端物理工学部門の村山能宏准教授、原田啓吾(研究当時、修士課程在籍)らの研究グループは、緑藻の一種であるボルボックスの体細胞には周囲の明るさに順応可能な照度差検知機構が備わっていることを発見しました。この機構の性能は前方の細胞のほうが後方の細胞よりも高く、前方の細胞が舵取り、後方の細胞が漕ぎ手の役割を担うことで、個体が明るい方へ移動する動きを巧妙に制御していると考えられます。各細胞が位置に依存した役割を担うことで細胞集合体としての個体の動きを制御するしくみは、マイクロロボットや自動制御システムなどの技術開発への応用が期待されます。

本研究成果は、PNAS Nexus(最終版、10月16日付)に掲載されました。
論文タイトル:Position-dependent roles of somatic cells in phototaxis of Volvox
URL:https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgae444 

背景
 ボルボックスは池や水田などの淡水に生息する緑藻の一種であり、直径数百マイクロメートル程度の球形をしています。球面上に数千個の体細胞が配置されており、各体細胞には光センサーの役割を担う眼点と、駆動力を生み出す2本の鞭毛(注1)が備わっています(図1)。数千本の鞭毛が水をかくことで、ボルボックス個体は自転しながら水中を泳ぎます。細胞内には光合成を行うための葉緑体が存在し、個体は明るい方へ移動する正の走光性(注2)を示すことが知られています。ボルボックスには細胞間の複雑な情報伝達機構は備わっておらず、個体の走光性は「暗から明の照度(明るさ)変化に対する鞭毛運動の一時停止」という個々の細胞のシンプルな応答により実現されています。さらに、ボルボックスは周囲の明るさに応じて走光性の感度を変えることができます。しかし、この感度調節機構が体細胞に備わっている機構であるのか、細胞集合体として個体に現れる性質なのかは定かでありませんでした。本研究では、感度調節機構が細胞に備わる性質であることを突き止めるとともに、感度の高い細胞を前方に、低い細胞を後方に配置させることで、個体の動きの巧妙な制御を実現している可能性があることを発見しました。

研究体制
 本研究は、真人线上娱乐工学府物理システム工学専攻の大学院生原田啓吾(当時)、同大学院生駒坂紫子(当時)、同大学院生山田啓祐(当時)、同大学院生大谷奏(当時)、同大学工学部物理システム工学科4年生飯塚拓海(当時)、および村山能宏准教授らが共同で実施しました。
 本研究は、JSPS科研費 23740290、および22H05067(学術変革領域研究(B)「微生物が動く意味」)の助成を受けたものです。

研究成果
 集団、個体、細胞レベルにおいて、照度変化に対する応答を観測した結果、ボルボックス個体を構成する体細胞には、変化前後の明るさの差(照度差)に対して反応し、周囲の明るさに対して感度を調節できる機構が備わっていることを発見しました。さらに、これらの差動型、順応型センサーとしての性能は、前方の細胞のほうが後方の細胞よりも高いことが分かりました。これらの光センサーとしての性能の違いは、体細胞に備わる眼点の大きさと関係していると考えられます。前方の細胞の数は後方の細胞よりも少なく、前方に位置する感度の高い少数の細胞が舵取り役を担い、後方に位置する感度の低い多数の細胞が漕ぎ手役を担っていると考えられます。

今後の展開
 本研究で発見された位置に依存した細胞の性質の違いは、細胞の機能分化と多細胞化の関係や、細胞数に応じた生物の生存戦略という観点からも興味深い結果といえます。また、単純な機構で高度な機能が創発するしくみは、マイクロロボットや自動制御システムの開発への応用が期待されます。

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用語説明
注1)鞭毛
微生物が流体中を動く際の推進力を生み出したり、生体内で流れを生み出したりするための細胞小器官。屈曲を繰り返すことで流れが生じる。真核生物の鞭毛には9+2構造と呼ばれる共通の構造が見られる。

注2)走光性
生物が光刺激に対して反応し移動する性質。明るい方へ移動する性質を「正の走光性」、暗い方へ移動する性質を「負の走光性」と呼ぶ。

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図1:ボルボックス個体(左)と体細胞に備わる眼点及び鞭毛(右)(PNAS Nexus, pgae444, https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgae444の図を一部改変)。



図2:体細胞の光センサーとしての性能の違いと個体の運動における役割分担。

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? ◆研究に関する問い合わせ◆
 真人线上娱乐 大学院工学研究院
 先端物理工学部門 准教授
  村山 能宏(むらやま よしひろ)
   TEL/FAX:042-388-7107
   E-mail:ymura(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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